約4,100kmのキャリアの旅路時代と共に進化する歯科医師のあり方を探る Vol.1
[ベトナム・ハノイ編]

Series:歯科経営者インタビュー

医療法人社団 大伸会
ハノイ三国歯科

院長

幾島章仁

Akihito Ikushima

歯科医師である私は何者なのか?

大学卒業から5年後に網走で開業。とにかく診療に忙しい毎日を過ごしていたが、親の介護の都合で、実家のある札幌に戻った。網走の診療所を人に譲り、地元札幌で勤務医生活。数年後、親の介護から解放されたとき、あらためて今後のキャリアを考えたという。「網走に戻れば、きっとあの毎日が待っている。〝主訴たる症状を治したら終わり〟に忙殺される日々。それでいいのか?」

歯科医師として自分に何ができるのか。自分の使命と可能性を問い直したかった。そんな折、海外への歯科診療ボランティア派遣を行う団体があることを知り、機会を得てベトナムに渡った。日本以外で人の口腔を診ることなど、それまで想像したことさえ皆無。そんな自分の視界に飛び込んできた、ベトナムの子どもたちの口の中の現実。「抜歯ばかりでボロボロ。本当に驚き、何とかしなければという衝動に駆られました」
2回目のベトナムでのボランティア活動から帰国した後、業界誌に掲載されていた院長募集の求人広告に目がとまった。<ハノイに分院開設。現地で勤務できる歯科医師募集>。「もうこれは運命だと直感し、すぐに応募しました。が、すでに充足しましたとの回答。〝あーあ〟とトーンダウンしかけましたが、後日採用事務局から連絡があり、キャンセルが出たのでどうですかという打診が。なおさらこれは運命だな、と(笑)」。こうして幾島歯科医師のキャリアは、新たな航路へと舵を切ることになった。

道なき道を進んで手に入れたもの

日本とは事情が違う。さらに、日系の歯科医院がベトナムで法人登記し診療所を開設した前例がほとんどない。経営以前に、開設手続き自体が手探りの状態。「依頼していたコンサル企業も歯科医院開設を手掛けるのは初めて。当初、私はオープンできる状態になってから現地入りする予定でしたが、この進まない申請手続きという課題解決に向かうところから現地生活はスタートしました」。苦労を重ね、開設準備を整え終えたときには約半年が経過していた。しかし、先駆者の苦労は、時に他にはない先行者利益をもたらす。「おかげでノウハウを手に入れることができました。ハノイで2店舗目の開設を準備していますが、今回はコンサルを一切通さずに申請を完了させました。開設申請について、もう怖いものはないですね」

2016年7月1日に1院目をオープンし、それから1年数ヶ月が経過した。毎月の新患数は、開業月からずっと一定数を維持できている。それは、始めてみなければ知ることのできない現地事情に次々と遭遇しながらも、その事情の背景を仮説し、敏感かつ柔軟に対応法を修正しながら小さな成功を積み重ねてきた証だと言える。
「ベトナムの歯科診療は原則的に自由診療となります。こっちでは治療内容の価格表示がものすごく細かい。日本のように〝いくらぐらいから〟の表示では信用されません。WEBを見れば、何の材料を使う治療がいくらだと明確にわかるため、患者は来院前に価格比較を行ってから通院先を選ぶことができます。シビアな価格相場があり、そういう事情を理解するのに4ヶ月くらいかかりました」。プライシングの重要性以外にも、あらゆる点において現地化の課題があったという。しかし苦労を語りながらも、それらを乗り越えてきた経験が、自身の可能性に対する信頼を高めているようにも見えた。

やりがいは想像を越えてやってくる

今年11月、医療法人社団 大伸会はハノイに2店舗目となる歯科診療所をオープン。今後もベトナム国内に出店を続けていくという。網走に戻ろうと向いていた体の方角を「それでいいのか?」とくるりと変え、移動した距離は約4,100km 。しばれる大地から年中温暖な異国の地へ。同じ歯科医師という職務でありながら、そこで知る世界と自分自身はまるで違う。キャリアを選択することの意味は大きい。「こっちに在留している日本人の方も来院されます。『ああ! 日本語が通じてうれしい』としみじみと言われまして。これまで症状が治って良かった、ありがとうと言われる経験はありましたが、まさか日本語で治療を受けられることでこんなに喜んでいただけるとは。これもまた想像したことのなかった歯科医師としてのやりがいです」

ベトナムに来て、見て、知って、さらに取り組んでいきたい新たな課題にも出会った。「ベトナム人歯科医師に対する教育、特にホスピタリティーについて指導していけたらと感じています。すでに、接客の仕方、患者さんへの対応法について、セミナーの打診も受けており、つまり、ニーズがあると理解しています。あくまで印象ですが、ベトナム人歯科医師には、人のために、地域の役に立ちたいという思いよりも、自分のために、家族のためにお金を稼ぎたいというスタンスの人が多いように感じます。彼らに利他の姿勢や理念のある診療の大切さを伝えていけたらいいなあと思っています」。柔和な瞳でそう語る凜とした幾島歯科医師の姿勢には、気高い志が表れていた。

医療法人社団 大伸会

関東を中心に国内に17医院を展開。国内にとどまらず、2016年7月にベトナム ハノイに「ハノイ三国歯科」、2017年11月にハノイ2院目となる「Nha Khoa MIKUNI 2」をオープン。 Nha Khoa MIKUNI 2幾島院長が治療を手がける「ハノイ三国歯科」に対し、「ベトナム人歯科医師が日本式の治療でベトナム人患者を診るための医院として開設。ベトナム語のみ対応。
PROFILE
1968年 北海道札幌市生まれ
1994年 北海道大学歯学部卒業
1999年 網走市に「いくしま歯科クリニック」開業
2009年 札幌市の医療法人社団 エスプラスに勤務
2016年 医療法人社団 大伸会入職・ハノイ三国歯科 院長就任

NPO法人JAVDO(日本歯科ボランティア機構)に所属し、ベトナムの歯科ボランティアには過去5回参加。

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