車窓の風景に何を見るか

業界を一歩リードする存在になる。そのために必要とされる要素の一つが、イノベーションです。しかし、ビジネスモデルをゼロから生み出すのは難しく、また同業他社の模倣ではイノベーションとは呼べません。そこで参考にしたい一つの方法が、本書の扱う「異業種からの学び」です。本書は、異業種が行っていることを自社に取り入れて新境地を切り拓いた企業を多数挙げるとともに、それらのビジネスモデルの鍵となる7つの要素についても分かりやすく解説しています。その一つが、「顧客の再定義」です。今回は異業種の販売管理法を取り入れたことで「顧客の再定義」を実現し、市場を拡大した楽天バスサービスの例を紹介しましょう。

高速バスを比較・検討できるウェブサイトを運営する、楽天バスサービス。バス事業者とバス利用者の双方を顧客とするこのサービスは、SEO対策やメールマガジンの配信により利用客を増やしてきましたが、平日の予約数が週末に比べて少ないことが課題となっていました。そこで取り入れたのが、ホテルや航空業界で用いられているレベニュー・マネジメント。過去のデータから予約の見込みを立て、それに合わせて価格を変動させることで需要と供給をマッチングさせていく手法です。さらに、バスにはホテルや航空とは異なる利点がありました。価格変動だけでなく、「台数を増やす」という手段があったのです。それに気づいた楽天バスサービスは、顧客定義に「中小の貸切バス事業者」を追加。稼働していない貸切バスを高速バスとして活用することを勧め、ウェブ販売を促しました。遊休資産を持て余していた企業が次々と手を挙げ、もちろん利用客も増加。さらに、これを契機に高速バス事業へ参入した会社が生まれるなど、業界全体を活気づける結果にもつながったのです。

このように、ある業界では当たり前に利用されている手段でも別の業界にとっては革新につながる可能性があるということ、そしてイノベーションの種を見つける視点の持ち方を本書は示してくれます。新たなビジネスモデルのヒントに気づき、それを抽象化し、自らの業種に移植する。その方法を心得ることで、異業種という「車窓から見える風景」は、今までとは違う色に姿を変えるのです。

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